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東京高等裁判所 昭和33年(う)2076号 判決

被告人 斎藤康成 外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を新潟地方裁判所村上支部に移送する。

理由

原判決が、その理由において、罪となるべき事実として、公訴事実のとおりの所論掲記のような事実を認定判示し、法令の適用として、右事実中被告人両名の判示第一の所為、及び被告人斎藤の判示第二、(1)(2)の各所為がいずれも森林法第一九七条(森林窃盗の罪)に該当するものとなし、同条所定刑中いずれも懲役刑を選択していることは、所論のとおりであつて、これに対して検察官の所論は、簡易裁判所においては裁判所法第三三条第一項第二号により、選択刑として罰金刑が定められている森林窃盗罪についても、第一審の裁判権を有するものであるが、同条第二項により、同項所定の各罪にかかる事件を除いては、禁錮以上の刑を科することができず右同項所定の各罪には、森林窃盗の罪を含まないことが法文上明らかであるから、簡易裁判所においては、森林窃盗の罪につき所定刑中懲役刑を選択して科することはできないものであつて、もし、懲役刑を科するを相当と認めた場合には、決定をもつて事件を管轄地方裁判所に移送すべきことは、裁判所法第三三条、刑事訴訟法第三三二条に明定するところであるから、簡易裁判所である原裁判所としては、前示のように、右森林窃盗罪につき懲役刑を選択するを相当と認めた以上、前記法条に則り、決定をもつて本件を管轄地方裁判所である新潟地方裁判所村上支部に移送すべきであつたにもかかわらず、ことここに出ないで、前示のとおり、被告人両名に対し、いずれも森林窃盗罪につき自ら懲役刑を選択処断したことは、明らかに刑事訴訟法第三七八条第一号の不法に管轄を認めた場合に該当するものであつて、到底破棄を免れない旨を主張する。よつて案ずるに、裁判所法第三三条の解釈上簡易裁判所においては、森林法第一九七条の規定による森林窃盗罪については、自ら懲役刑を科することができなくて、もし、これを科することを相当と認めたときは、裁判所法第三三条第三項、刑事訴訟法第三三二条に則り、決定をもつて事件を管轄地方裁判所に移送しなければならないと解すべきことは、所論のとおりである。ところが、これに対して各弁護人の答弁は、いずれも、森林窃盗罪も刑法第二三五条所定の窃盗罪の一種であること、その他の理由により、簡易裁判所においても、森林窃盗罪につき自ら三年以下の懲役刑を科することができると解すべきである旨を主張するもののようであるが、しかし、いわゆる親族相盗の関係を定めた刑法第二四四条の解釈については、同条に「………二百三十五条ノ罪及ヒ其未遂罪……」とあるのは、窃盗罪及びその未遂罪の義にほかならないと解し、森林窃盗罪についても、刑法第二四四条の適用がある旨を示した判例(最高裁判所昭和三一年(あ)第七三一号、同三三年二月四日第三小法廷判決)が存するけれども、右親族相盗の場合とは規定の性質を異にし、国民の基本的人権に重大な関係のある裁判所法第三三条の解釈については、右判例に示されるような趣旨の解釈は、許されないものというべく、従つて、弁護人らの右各主張は、ひつきよう独自の見解を出ないものであつて、到底採用に値しない。してみれば、簡易裁判所である原裁判所においては、原判示のように、本件につき森林窃盗罪についても懲役刑を選択処断するのを相当と認めた以上は、前示の法条に従い、決定をもつて本件を管轄地方裁判所である新潟地方裁判所村上支部に移送すべきものであつたといわなければならない。しかるに、原裁判所においては、この措置に出ることなくして、自ら被告人斎藤の原判示第一、第二、(1)(2)の各所為につき森林法第一九七条(第一につき刑法第六〇条)を、同第二、(3)の所為につき刑法第二三五条(原判決書には、第二百二十五条とあるも、右は、第二百三十五条の明らかな誤記と認める。)を適用し、右森林法第一九七条の所定刑中懲役刑を選択し、更に、併合罪に関す該当法条を適用して、法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、被告人榎本の原判示第一の所為につき森林法第一九七条、刑法第六〇条を適用の上、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内で同被告人を懲役八月(三年間執行猶予)に処したことが原判決書の記載自体に徴して明らかであるから、原判決は、正に刑事訴訟法第三七八条第一号所定の不法に管轄を認めた場合に該当するものというべく、この点において到底破棄を免れない。検察官の論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項に則り、原判決を破棄した上、同法第三九九条本文に従い、本件を管轄第一審裁判所である新潟地方裁判所村上支部に移送することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西要一 山田要治 鈴木良一)

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